下垂体・内視鏡手術センター
診療内容・特色
帝京大学医学部附属病院では、全国にさきがけ、下垂体・内視鏡手術センターを開設し、下垂体腺腫の患者さんに対し、積極的な治療を行っております。さらに、この手術法を発展させ、頭蓋底腫瘍に対する新たな手術法を開発し、下垂体腺腫のみならず、頭蓋咽頭腫や髄膜腫、脊索腫、軟骨肉腫といった様々な疾患の治療を行っています。近年では、脳深部の病変に対し、小さな開頭で行う内視鏡下低侵襲手術についても開始しております。神経内視鏡を用いることで、従来、脳を圧迫し、限られた視野のもとで行われていた脳神経外科の手術を、本来、人間の体に備わっている自然の空洞を利用して、頭の中に入って行うことできるようになりました。こうして、脳の損傷を最小限に抑えて、脳深部の広い範囲へ伸展した腫瘍も、直視下に切り取ることで、安全性に配慮した手術が可能となります。
下垂体腫瘍や頭蓋底腫瘍などの良性腫瘍は、何年もの間、大きくならず、経過観察できるものが多く存在しています。当院では、各々の症例での治療必要性について、症状や増大傾向、画像所見などを詳細に検討して決定します。手術については、内視鏡手術を中心とした、体の負担の少ない、安全性の高い効果的な手術をお勧めしています。
開頭せず、鼻腔を経由して脳深部に到達、神経内視鏡下頭蓋底手術
下垂体・内視鏡センターを開設し、下垂体腺腫や頭蓋底腫瘍に対し、開頭せずに鼻腔を経由して腫瘍の切除を行う、内視鏡下経鼻頭蓋底手術を積極的に行っています。この手術法では、脳に圧迫を加えることなく、深部に存在する病変に直接、脳の底側から到達することが可能であるため、開頭手術と比べ、患者さんの体の負担が少なく抑えられます。現在まで、下垂体腫瘍に対する手術に加え、頭蓋底に発生し脳神経を巻き込んで発育する、髄膜腫や頭蓋咽頭腫に対しても、この手術法を応用しています。さらに、頭蓋底脊索腫や軟骨肉腫など、一般に安全な切除が難しいとされる疾患に対しても、内視鏡手術により、徹底切除と症状の改善の両方を達成するよう努めています。当院の内視鏡下経鼻手術は、日本神経内視鏡学会技術認定医(辛教授、後藤講師)が手術を担当しています。
鼻腔を経由して脳深部の病変に到達する内視鏡下経鼻頭蓋底手術
脳腫瘍に対し、小さな開頭で行う内視鏡下低侵襲手術
鼻腔を経由する手術以外にも、内視鏡を使用することで、脳内出血や脳深部の脳腫瘍の手術が、小さな開頭で行うことが可能となります。具体的には、頭蓋骨を前頭部で径3㎝程度、楕円形に開頭し、前頭葉を経由して脳内に進入し、病変部へとアプローチします。頭蓋骨の外から脳内を観察する従来の手術では、脳の深部を観察しようとしても、非常に限られた視野しか得られませんでした。しかしながら、内視鏡を利用して、脳の中に入り、病変を観察することで広い視野のもとで、安全性に配慮した手術が可能となるのです。脳内出血では、病変が比較的脳の中心に存在していれば、出血の程度や血腫の大きさに関わらず、十分な圧迫の除去と止血の達成が期待できます。また、脳腫瘍では、脳室内に発生する腫瘍で、特に治療がしやすいように思います。また、術後についても、低侵襲な経鼻的内視鏡手術より、さらに速やかな回復が期待でき、高齢者にも優しい手術です。
当院における下垂体腺腫・頭蓋底腫瘍の治療の特徴
下垂体腫瘍に対する神経内視鏡手術
神経内視鏡を使うことで側方や上方へ伸展した腫瘍にも、安全性を保ちながら切除することが可能となり、鼻中隔を鼻腔の奥で一部分だけ切開・剥離することで手術が可能であるため、手術時間が短く、術後の患者さんの身体への負担も少なく抑えられます。通常、手術の翌日から食事や歩行も可能です。
また、患者さんの鼻腔の大きさに合わせて片側または両側の鼻腔を使用することで、鼻腔の小さな方にも安全に配慮した苦痛の少ない治療を行っております。こうした患者負担の軽減を考慮した“日本人に適した”手術法は、近年、従来の手術法に代わり、多くの施設で採用されるようになってきています。このように、新たな手術法や手術機械の開発を常日頃から行うことで、術後の患者さんの不快感を少しでも軽減し、一日でも早く、日常生活に戻っていただけるよう、常日頃から努力しています。
- 下垂体腺腫の治療に熟練した専門医が、治療の必要性から治療方針、経過観察に至るまで、一貫してご相談を受け、一人一人の患者さんに適した治療計画を提示いたします。
- 脳神経外科の専門医が、知識と経験を生かして、患者さんの治療を検討し、方針を決定します。
- 外科手術では、国内外で多くの経験を積んだ日本神経内視鏡学会技術認定医(辛教授、後藤助教)による経鼻的手術を行っており、患者さんの体の負担を最小限に抑えた手術法を採用しています。
- 安全な摘出が困難とされる上方や側方、頭蓋底の深くに進展した腫瘍でも、神経内視鏡を用いることで、直視下で無理なく切除することが可能です。
- 手術での摘出に著しい危険が伴う部分の腫瘍については、安全かつ充分な範囲の摘出に留め、残存部に対して必要に応じてガンマナイフや薬物療法による追加治療を、連携して行っていきます。
外来で様子を見ることをお勧めする場合
- 腫瘍の大きさに関わらず、あきらかな症状やホルモン異常を認めていない場合
- 腫瘍がプロラクチンというホルモンを産生するタイプの場合(プロラクチンとは、妊娠した女性で、月経を止めたり、乳汁分泌を促したりする作用のホルモンです。このホルモンを産生するタイプの腫瘍では、週に1~3錠の内服薬で、症状が改善したり、腫瘍を小さくしたりすることができるので、手術をお勧めすることは極めてまれです)
早めの治療をお勧めする場合
- 腫瘍がすでに大きく、視力の悪化や視野の異常を認めている場合
- 成長ホルモンや副腎皮質刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモンなど、腫瘍がホルモンを過剰に放出していて、体への悪影響が懸念される場合(腫瘍が小さくても治療の対象となります)
- 腫瘍が出血を伴っていて、ものがダブって見えるようになっていたり、激しい頭痛や、下垂体の機能の低下などの症状がみられる場合
治療について、患者さんと相談が必要な場合
- 数年の経過観察の結果、腫瘍がゆっくりと大きくなってきている場合(将来的に視力の悪化や視野の障害を認める可能性がある方では、治療のタイミングについてご相談させていただきます)
- 生まれつきの膨らみ(ラトケ嚢胞)がゆっくり大きくなっている場合(ラトケ嚢胞は、一旦増大しても、しばらくすると自然に縮小することがよくあります)
頭蓋底腫瘍(髄膜腫、頭蓋咽頭腫、脊索腫、軟骨肉腫)に対する神経内視鏡手術
鼻腔を経由して内視鏡下に病変に到達する手術方法は、顕微鏡下での開頭手術と比べて、頭部の切開が必要なく、脳の底から到達することで治療が可能であるため、術後の患者さんの身体への負担も 少なく抑えられるメリットがあります。
現在は、様々な施設で内視鏡手術が行われるようになってきていますが、その多くで、欧米で開発された手術の方法を踏襲した“endonasal法”という手技が行われています。これは鼻腔の奥で 広範囲に鼻粘膜を除去して、頭蓋底に到達する方法で、世界中で広く行われている方法です。比較的鼻が大きい欧米人に適した手術法ですが、鼻腔が小さな日本人(アジア人)では、相対的に破壊される鼻腔内の構造が広範にわたってしまうため、適しているとは言いがたいところがあります。鼻粘膜の発達した日本人では、鼻腔内の構造を広い範囲で破壊してしまう割には、あまり広い視野が得られていないといったデメリットがあります。
これに対して、当科では、以前から“trans-septal法”といった、独特の手術方法を開発し、行ってまいりました。この方法では、手術中は、鼻粘膜を内側から剥離して、一時的に術野の外側に除けてから脳の深部に到達します。手術中はendonasal法 に比べて広い術野を確保することが可能ですが、手術終了後は、剥がした鼻粘膜をもとどおり鼻中隔に戻すため、鼻腔内での鼻粘膜や副鼻腔の損傷を最小限に抑える ことが可能です。また、鼻腔の小さな患者さんにも安全に配慮した苦痛の少ない治療を行っております。こうした患者さんの負担軽減を考慮した“日本人(アジア人というべきでしょうか)に適した”手術法の開発は、近年、国内外の学会でも発表されています。このように、新たな手術法や手術器械の開発を常日頃から行うことで、術後の患者さんの不快感を少しでも軽減できるよう、努力しています。
また、鼻腔を経由して頭蓋内の腫瘍にと到達する場合、多くの医師が懸念するのが、手術後に髄液鼻腔から漏れ出す“髄液鼻漏”といった状態です。下垂体病変の手術には多く経験がある病院でも、経鼻手術を躊躇する一番の原因が、こうした髄液鼻漏の対処が確立していないことにあります。これについても、当院では“多層性筋膜再建法(multilayer fascial closure)”という方法を開発し、術後髄液漏を克服することに成功しており、懸念要素が少なくなっています。
ムービー
内視鏡による脳神経手術(2023年2月制作)
脳神経外科 主任教授 辛 正廣
スタッフ
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